出会いは突然に、再会は寒空の下で
ショートショート / 20XX年XX月 / まさかのノンフィクション。
人の生きる意味の答えが、それぞれ違うように。
道端にネギが落ちている意味も違うのだろう。



彼、あるいは彼女はなぜ私の職場の前に落ちていたのか。
言葉を発しないネギを前に、私はかける言葉を持たなかった。

地面にただ落ちているネギに、私はどうすればいいのか。
しばしの逡巡の後、私は何の言葉を交わすことなくその場を後にした。



再会は、寒空の下だった。

あのとき君はそのままの姿で、タイルの上に横たわっていた。
しかし今度の君は透明な袋に包まれて、ロータリーの柱にそっと寄り添っていた。



君はあのときのネギなのだろうか。
私にはわからない。ネギの個体を識別する術を、私は持たない。

誰かを待っていたのだろうか。
それともただ、柱に寄り添っていたのか。

袋に入ったネギがバスロータリーに佇む理由。
私にはそれが不思議であったが、ネギはただそこに在った。

人には人の事情があるように、ネギにはネギの事情があるのだろう。
私とネギは、ただ出会っただけの関係なのだ。
そこに交わす言葉もなければ、育む愛もない。落ちてるネギを食べる気もしない。

また少しの逡巡の後、私はネギから目を離し静かに立ち去った。
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