◆出会いは突然に、再会は寒空の下で |
ショートショート / 20XX年XX月 / まさかのノンフィクション。 |
人の生きる意味の答えが、それぞれ違うように。 道端にネギが落ちている意味も違うのだろう。 彼、あるいは彼女はなぜ私の職場の前に落ちていたのか。 言葉を発しないネギを前に、私はかける言葉を持たなかった。 地面にただ落ちているネギに、私はどうすればいいのか。 しばしの逡巡の後、私は何の言葉を交わすことなくその場を後にした。 再会は、寒空の下だった。 あのとき君はそのままの姿で、タイルの上に横たわっていた。 しかし今度の君は透明な袋に包まれて、ロータリーの柱にそっと寄り添っていた。 君はあのときのネギなのだろうか。 私にはわからない。ネギの個体を識別する術を、私は持たない。 誰かを待っていたのだろうか。 それともただ、柱に寄り添っていたのか。 袋に入ったネギがバスロータリーに佇む理由。 私にはそれが不思議であったが、ネギはただそこに在った。 人には人の事情があるように、ネギにはネギの事情があるのだろう。 私とネギは、ただ出会っただけの関係なのだ。 そこに交わす言葉もなければ、育む愛もない。落ちてるネギを食べる気もしない。 また少しの逡巡の後、私はネギから目を離し静かに立ち去った。 |
◇小説に戻る / ◇トップに戻る / ◇このページの一番上に戻る |