エイプリルフールの語源2
ショートショート / 2010年04月 / エイプリルフールの語源についての云々その2。
1867年、イギリスのエイプリル少佐は戦地で家族に宛てた手紙を書いていた。

"私は祖国のための礎となる。家族を残して逝くのは心残りだが、どうか誇りを持って私の分まで生きて欲し……"

背後で扉が開く音がした。

「おっと、そこまでだ」

少佐が振り返ると、そこには息子のジャックが物憂げな視線を彼に投げかけていた。
哀れむようなその視線は、まだ幼い彼のいつもの笑顔からは想像がつかないものだった。

「エイプリル少佐。自作自演の自伝、虚偽の騎士爵位。あんた、やりすぎだ」

少年は静かに銃を構え、少佐にまっすぐ狙いをつける。

「ジャック。これはほんの冗談なんだ、エイプリル・フールの由来、知っているようで知らないだろう? 素敵なフィクションだよ」

息子をみる彼の目は泳ぎ、宙をさ迷う。

「エイプリル。あなたは確かに愚かだった。騙されていた僕たちも愚かだった。あなたはここで終わる。エイプリル少佐の経歴は軍舎の中で事故で幕引きだ」

何か言おうとする少佐を、ジャックの銃弾が遮った。
倒れ伏すエイプリル少佐。数歩前に歩いて少佐の即死を確認すると、ジャックは踵を返し部屋を後にした。

「……父さん、確かにあなたは愚かだった。名誉のため、祖国のため、ジョークのため。命を投げ出してそんなものを書いていた。僕はそれが好きだった。でも、それが許されないこともあるんだ」

自分に言い聞かせるように、呟きながら暗がりに消えていくジャック。コードネーム「エイプリル・フール」。彼がその名で英国の諜報員として歴史の裏で暗躍するのは、その数年後の話だ。




***




「パパ、また自伝?」

「いや、こんどはアクションでサスペンスなんだ!エイプリル・フールが陰謀で暗躍して世界のあれやこれを……」

「ふーん。いいけど、明後日の結婚記念日忘れないほうがいいよ。今年も忘れたら、サンドイッチの具が砂になるぐらいじゃすまないと思う。じゃ、おやすみ」

「う、あ、ああ。……もちろんさ。忘れないとも。ありがとうジャック、おやすみ」
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